1万円超え『平成仮面ライダー超全集』登場、“本の受注生産”が出版界にもたらす可能性とは

2018.11.11

 “平成最後の仮面ライダー”『仮面ライダー ジオウ』の放送に合わせて、小学館の『てれびくん』編集部が、“大人向け”に『平成仮面ライダー超全集BOX Vol.1』の注文を受付けている。同書はネットの申し込みシステムを活用した「完全受注生産」となる見込みで、大手出版社としても珍しい事例となる。本作りの新たな手法へのチャレンジとなっているが、大手取次のトーハン近藤社長も「受注生産は業界として必然の流れ」と発言するほか、KADOKAWAも紀伊国屋との独自流通の取組を行うなど、近年は従来の本の流通に変化の兆しも。そんな中、小学館で行われている“完全受注生産”について、同企画の仕掛け人・こどもデジタル室の水野隆氏に、新出版システムの活用の狙いや「明るい影響しかない」と語るその可能性について話を聞いた。
【写真】竹内涼真や佐藤健、意外なあの人も…平成ライダーイケメン俳優たち
■1万円超えの『仮面ライダー本』がヒント、ファンの盛り上がりに着目
 『平成仮面ライダー超全集BOX』は小学館の『てれびくん』編集部が製作。12月3日 18時までに3000ボックス受注を達成して初めて出版される、“完全受注生産”の豪華版として1万1800円(税込・送料込み)にて申込を受付中だ。第1弾は、仮面ライダークウガ超全集の上巻・下巻・最終巻、仮面ライダー剣超全集、仮面ライダーカブト超全集、仮面ライダーディケイド超全集の上巻・下巻、仮面ライダーフォーゼ超全集と従来のラインナップに加え、過去超全集化されていなかった『仮面ライダーオーズ』が初の超全集化となる。また収録の各超全集は表紙を一新、紙質も変更するなどファンにはたまらないセットとなる予定だ。気になる受注状況は、10月末時点で2,000万円を超える額が集まっている。このユニークな取り組みをスタートした背景について話を聞いた。
 「『てれびくん』編集部が2017年に発行した『仮面ライダーエグゼイド超全集 特別版 ハイパームテキBOX』は価格1万円という高額な本でしたが、ウェブで話題となり、amazonの販売で飛ぶように売れたんです。ファンのニーズにかなえば、高価な本でも喜んでもらえるものになることが分かりました。そこにヒントを得て、今回の超大全BOXはウェブ限定申込みの完全受注生産で販売するのがいいと考えました」と水野氏。また、また、近年のネットでの“お祭り化”にも着目したそう。
 興行収入88億円の記録的大ヒットとなった映画『名探偵コナン ゼロの執行人』の盛り上がりの背景に「安室徹を100億の男にしよう」とコンテンツを盛り上げ、繰り返し映画を鑑賞するコアファンの動きがあった。ほか、水野氏が携わったコンテンツでもユーザーの“お祭り化”を体験したという。かつての子ども向け人気キャラクター『ハム太郎』の誕生日にウェブで展開した企画がTwitterのハッシュタグのトレンド世界1位になるほか、学習雑誌『小学一年生』の豪華ふろくを大人が改造した様子を公式サイトで取り上げてネットニュース、SNSなどで大きな話題になった。学年誌の増刊『小学8年生』やコロコロコミックの大人版『コロコロアニキ』が世に出た時もネットニュースを賑わし、SNSでも現在のファン・かつてのファンが反応し、話題が広がっていった。ネットの世界において、コンテンツのファンがロイヤルカスタマー化する傾向にあり、その流れをキャッチした新たな取り組みといえよう。仮面ライダーというコアファンを擁するコンテンツで読者の“参加感”を盛り上げていくという試みのようだ。
■受注生産の可能性とは?「デメリットはない。出版界に多様性を」
 今回の受注生産本は、外部から予算を確保する“作り方”と、欲しい人にのみ届くという“流通”が従来の出版システムと異なる。どういったメリットとデメリットがあるのだろうか。
 求める人にのみ届くことで利益を見込める一方、無駄やロスを省くいて制作側が“冒険”しなくなる危惧はないのか。興味がなかった人を振り向かせる“興味の扉”という役割も担っている書店で陳列されないことの弊害もあるように思える。その問いに水野氏は「考えれば考えるほど、作家、読者、書店、出版社にメリットしかない」と熱を込める。
 「従来の製作方法の本がなくなるわけではありません。本が世に出ていくための新しい“道”ができることは、出版社としても本の内容に即した“届け方”を選べることになる。受注生産の本は新人発掘の場としても機能することにも期待しています。ヒットの手応えがあれば従来の流通に乗せて書店で販売することも可能だと思います。本の受注生産の取組は出版界に多様性をもたらす可能性があると思っています」(水野氏)。
 出版不況が長らく叫ばれている中、むしろ、現状のほうが「売れる本しか作れない」=冒険しずらい状況にあるという。それは、出版界だけでなく、ファンを抱えていてヒットを見込める“原作もの”が主流になっているドラマ・アニメ・映画などでも同様でコンテンツ製作業界の共通した課題になっている。その“冒険しずらい”状況下においても本の分野では“受注生産本”であれば、挑戦的なモノづくりができるのだ。
 一方、受注生産はロスが少ないぶん、冒険できる場としても機能するほか、出版前に収益がほぼ確定するため、採算がとれていれば小ロットの生産(印刷)も可能になる。「本が売れないから受注生産をする」という流れではなく、“冒険”であり前向きなチャレンジとして“受注生産”の道があるという。
■ユーザー、書店、出版社の間で“相互コミュニケーション”を図るための第一歩
 今回の受注生産本の取り組みは、ユーザーと出版社が直接“ニーズ”をやり取りしている形となる。ここに、受注生産の試みの“意義”がある。日本の出版界は全国への流通システムが優れていた。東京で作られた本が取次から全国津々浦々の書店へと発売日前に届いている。そして流通システムが優れているが故に、出版社から書店へ、書店から読者へと“一方通行”になっていた点があると指摘する声はこれまでも多くあった。
 「いずれは書店、読者から反響やニーズをやりとりする仕組みを作っていきたい。今回の『仮面ライダー超全集BOX』は、その壮大なチャレンジへの第一歩としてのトライアルだと考えています。マスに届くミリオンセラーだけでなく、フレキシブルに、多様性を持って本の世界が広がっていってほしい。「この時だけ」「ここでのみ」「同じものは2つとしてない」そんな本が出てきても面白のではないでしょうか」(水野氏)
 可能性を秘めた“本の受注生産”が今後広がっていくか、今後も動向に注目していきたい。

関連リンク

ORICON NEWS